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『むかしばなし』データベースから【奥七番の無垢の話】を表示 登録件数30中1件
奥七番の無垢の話別子山のおはなし(イラスト:藤田美保)

挿絵
別子銅山が開坑されるより前の話です。 
 奥七番(今の別子山)の近くに年を取った夫婦が住んでいた。奥七番付近で採集される金鉱よりわずかの無垢(純金のこと)を集めて大坂のハイ屋に持って行って買ってもらっていた。
 毎年きまったように無垢を持って来る老爺より買っていたが、一層儲けようとハイ屋の番頭が、「お爺さんこれは無垢でのうて赤だよ(赤とは銅のこと)うちは無垢と思って買っていて大損をしている、これを赤の値なら買ってあげる。」といった。老人は不満であったがせっかく大坂まで持って来たのだから、一応赤の値で買ってもらってすごすごと奥七番へ帰った。そうして老婆に無念そうにいきさつを話した。老婆も不満だったが老夫を励まして翌年自信のある無垢を持って大坂へ行きハイ屋に自信満々顔で持って行った。ハイ屋の番頭は一目見て、「爺さん今年のもアカだよ、アカの値なら買ってあげよう。」と冷たくいった。
 「これを無垢でなくアカだというんなら、もう売らない。ハイ屋さん、ハイ屋さんはこんなに大きな店になったのは私が持ってきた無垢のおかげであったのではないですか。もうこの無垢は売らない。もう来年からも来ない。」といって無垢をかついで奥七番に帰り、老婆と共に、「無念だ、せっかく掘って得た無垢だのに。」と。
 生きる希望を失った2人は、「もうこの無垢は末長く隠そう。」と坑口を塞ぎ、坑口で差し違えて命を落とした。うらみごとを残して・・・・・・。
 それより奥七番の坑口は、2人の霊力からか見つけることができなくなった。
 一方ハイ屋は、無垢を売りに来なくなった老爺はどんなにしているかと銅山峰に番頭がやって来て、無垢を売りに来ていた老人がうらみごとを残して自ら命を果てたことを聞いてきのどくに思うと共に、無垢を掘り出した坑口を捜したが見つけることができなかった。 
 が、赤の露頭を見つけ、それを採掘した。それが別子銅山で新居浜発展の基となった。
 その後も無垢の坑口を捜したがとうとう見つけることができなかった。老夫婦が末長く隠してやるといったことば通りに。
 (宇摩郡土居町   篠永明さんの話の要約)
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