昔、昔、垣生に鰻長さんと呼ばれるウナギ捕りの名人がいました。本名は「長右衛門」ですが、あまりウナギ捕りがじょうずなので誰いうともなく「鰻長さん、鰻長さん」と呼ぶようになりました。 その長さんが、ある夏の日急に病気になり、高熱がさがらず、とうとう死んでしまいました。長さんは冥土の国の入口に着きました。門の入口には赤鬼青鬼がいかめしい顔で立っていました。そこの赤鬼に生前の職業と氏名とを聞かれ恐る恐る立っていました。しばらくして、赤いいっそう強そうな鬼に門の中へ呼び込まれ、また生前の名と職業を間われました。 長さんは、「私の生前の職業はウナギ捕りでした。」と答えると赤鬼は、「なに、ウナギ捕りだと、では1日に何匹ぐらいウナギを捕ったか。」と間われたので長さんは、「はい、はい100匹くらいのものです。」と答えるとえらそうな赤鬼は、「ふ、ふん。」といったまま黙ってしまい、しばらくして、「俺のあとに続いてこい。」といって鉄の棒をがちゃがちゃ音させながら歩くあとをついて歩きました。 長さんが約3キロメートルも歩いたと思う時、大きな門の前に出ました。鬼に続いてその大きな門をくぐると、道が左右に分かれているところに出ました。右側に極楽道と書いた札が立っており、左に地獄道と書いた札が、一段と大きな字で書かれて立っていました。 その分かれ道の前で赤鬼はおそろしい顔つきで、「これ長右衛門、お前は今から閻魔大王の裁きを受けて、ここから地獄へ行くか、極楽へ行くか2つの中だ、たぶんお前は生前ウナギの命をたくさんとった大きな罪があるから、地獄行きに決まるかもしれんぞ。」というのです。 長さんはふるえながら赤鬼のあとをついて行きました。いよいよ3つ目の門をくぐると、法廷のような所に坐らされ、やがて閻魔大王が、大勢の家来を従えて出て来て、正面にいかめしく坐りました。長さんの両側には赤鬼が逃げないように監視しています。 「今から閻魔さまのお調べがある。1つも嘘をいわず正直に申し上げよ、生前のことはみんな照魔鏡に写るのだから、わかったか。」とおごそかにいうのです。長右衛門は失神しそうに恐れおののきました。閻魔大王は、右手に照魔鏡を持って厳しく正面の座に坐りました。 閻魔大王は、しばらく長右衛門を睨みつけていましたが、「これ長右衛門とやら、お前は生前ウナギ捕りの名人であったというが、そのウナギの捕り方を話してみよ。」と、長右衛門さんは得意になって閻魔さまの前であることを忘れて、ウナギの捕り方を面自く話しました、手ぶりも加えて。 「1日に何匹くらいウナギを捕るのか。」と閻魔さまがたずねると、「はいはい少ない日で100匹、多い日ですと150匹くらい捕ります。」 「ではその捕り方をここでやってみせよ。」と閻魔さまのおことば、長さんは図に乗って、「閻魔さまウナギというやつはこのようにして捕るのですよ。」とお尻をまくって、川に入ってウナギを網代で釣る真似をしてみせました。 長右衛門さんは話上手の上に、ウナギの捕り方までおもしろくやってお目にかけたので、閻魔さまは深く感心して気に入ってしまいました。 「よし、よし、感心した。お前は浮世にいた時にたくさんのウナギの命を捕ったので、地獄に行かそうと思っていたが、お前のウナギ捕りの実演を見て感心した。ウナギ捕りというのはまことにおもしろいものじゃのう。この閻魔もやってみたいほどじゃ、よって極楽行きにしてやる。ひまな時に時々遊びに来てまた別の話もしてくれ。」 にこにこしながら閻魔さんが長右衛門さんにこういわれました。長さんは極楽で楽しく今もくらしている。 (垣生の年よりの話と昔を語る会で話されたものの要約)
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